Orchard Gateway オーチャードゲートウェイ

石田 和也(設計部 インテリアデザイン統括) / 宮川 茂一(設計部 設計統括) / 釣 佳彦(設計部) / 間宮 健二(設計部)

人の架け橋となり、次代への架け橋となる。

めざしたのは、人波を呼び戻す建物。

2006年、オーチャードロードに面したホテルと商業施設の再開発というコンペティションがあった。設計部の釣は言う。「依頼はオーチャードロードの南側に建物を建てるというものでした。ただ、道のはす向かいに施主のグループ会社が経営する『オーチャードエメラルド』という商業施設とオフィスの複合ビルがありました。そこに目をつけた丹下憲孝は、このふたつを結ぶことで、この周辺に人波を呼び戻す空間設計ができないかと考えたのです。オーチャードロードはシンガポールでナンバーワンのショッピングアベニューです。もともとは『オーチャードゲートウェイ』ができる『サマセット』界隈が賑わいの中心でした。しかし当時、人気は『オーチャードステーション』周辺へ移行していていたのです。この建物が完成することで『サマセット』界隈に人を呼び戻し、賑わいを取り戻そうという強い想いが丹下憲孝にはありました」

オーチャードロードに架け橋を。

新しい建物で賑わいを生む。丹下憲孝の案はこうだった。新しく開発する建物からはす向かいの既存の建物へ橋のような通路を渡す。オーチャードロードに橋をわたすという提案は大きなインパクトを与えた。なぜならこれまでにオーチャードロードをまたぐ橋は無く、誰も想像すらしなかったことだったのだ。その理由を設計部の宮川はこう説明する。「オーチャードロードは道幅が50mもある大きな通り。街一番の目抜き通りなので車が頻繁に行き交っています。また、両サイドには大きな木が植えられています。それまで橋がなかったのは現実的に工事が難しかったからです」
現実性が乏しくても丹下憲孝はここに橋は必要だと考えていた。橋を架けることで、はす向かいに建つ、施主のグループ会社の複合ビルと人の行き来ができるという以外にも理由があったと宮川は言う。「オーチャードロードは交通量が激しいのに、横断歩道は数えるほどしかなかったのです。横断歩道のないところを渡る人が多く、危険な状態でもあったのです。橋を架けることで、安全に人が行き来できるようにすることだけでなく、都市設計の面からも、これまでの道路に沿った『直線的な都市開発』から、『面的な広がりのある都市開発』、さらに建物を建てることで『立体的にも広がりのある都市開発』へ発展させたいという想いが丹下憲孝にはあったからです」

2日間でブリッジを架ける。

コンペティションに勝利して、TANGE建築都市設計の案は採用されたものの、シンガポールの道路管理局から許可を取るのはなかなか大変だった。工事のためにオーチャードロードの交通を規制することは難しいからだった。交通量が非常に多いオーチャードロードの交通を長期間妨げるわけにはいかなかったことで、丹下憲孝は工期の短縮を図るため『2日間でブリッジを架ける』方法を考えた。実はそこにもTANGE建築都市設計のDNAが見て取れると間宮は言う。「極端な工期の短縮を選択したのは、どんな困難なプロジェクトでも、場所や状況やコストなどを鑑みてベストの施工方法を選ぶという、TANGE建築都市設計のDNAがあるからです」

対話から生まれたアイデア。

さて、建物へ話を戻すと、「オーチャードゲートウェイ」にもさまざまな建築的特長はある。そのひとつが内部のインテリアに現れているとインテリアデザイン統括の石田は教えてくれる。「この建物は商業施設の上にホテルが乗っかっている形状です。難しかったのは商業施設のデザインです。カタチが四角ではなくL字型なのです。お客さまの回遊性を考えると、四角なら問題はないのですが、L字型で細長い場合、回遊性が悪くなります。そこで考えたのが隣接する商業施設とフロア単位で通路を接続することでした。その結果、ふたつの建物をつなげると正方形に近い形状になりました。デザイン的には一体感を表現しました。買い物をしているお客さまは、隣のビルに移った瞬間がわからないぐらいです」

しかし隣の商業施設とくっつけようという案はどこから生まれたのだろうか?そこに施主との対話を大切にするTANGE建築都市設計らしさが現れていると釣は言う。「コンペに勝ってから実際に設計段階に入るまでの期間に、このプロジェクトの隣の敷地の計画も始まりました。これは施主の関係会社のプロジェクトでした。その関係会社から『周辺の回遊性を生み出すと、それぞれの施設の売り上げアップにつながって双方WIN-WINとなるため、お互いの施設同士をつなげてはどうか』と打診があったのです。これがそもそもの発端です。内に留まらず周辺からの声にも耳を傾ける。TANGE建築都市設計の対話を重ねることを大切にする姿勢が、結果としてよい空間を生むことにつながった好例のひとつだと思います」 そして人波は「サマセット」界隈へ戻ってきたという。オーチャードロードにかかる橋、今日も多くの人が渡っている。

オーチャードゲートウェイ